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東京高等裁判所 昭和46年(ラ)127号 決定

抗告人 小沢恒彦

相手方 青山一郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。抗告人が原審において求めた費用額の確定決定を求める。」というにあり、その理由の要旨は、

「強制執行費用も訴訟費用の一種であるから、その確定決定を申立てることは適当であり、抗告人の本件執行準備費用額確定決定申立を却下した原決定は、不当である。なるほど、民事訴訟法第五五四条第一項は、強制執行の費用は強制執行を受ける請求と同時にこれを取立てるべき旨を規定しているが、同時に取立てることができなくて、しかも強制執行を受ける請求の弁済があつたような場合には、強制執行費用について、確定決定を得て、これを債務名義としてあらためて強制執行をするほか、執行費用を取立てる方法がないことが明らかである。現に抗告人は、別件債権差押および取立命令申請事件において、東京地方裁判所に対し請求債権と執行費用の双方について債権差押および取立命令の申請をしたところ、同裁判所は請求債権のみについて債権差押および取立命令を発し、執行費用については右申請を却下したものである。」というにある。

よつて按ずるに、民事訴訟法第五五四条第一項は、「強制執行ノ費用ハ必要ナリシ部分ニ限リ債務者ノ負担ニ帰ス此費用ハ強制執行ヲ受クル請求ト同時ニ之ヲ取立ツ可シ」と規定しているが、右規定の趣旨は、強制執行費用取立のためには、当該強制執行の基本たる債務名義がそのまま執行費用取立の債務名義となり、別個の債務名義(例えば執行費用額確定決定)を要せずして執行費用についても強制執行ができるというにあることが明らかである。したがつて、強制執行の基本たる債務名義を有するにかかわらず、その強制執行をなす以前にあらかじめ執行費用(執行準備費用をも含む。)の確定決定を申立てることは、その利益がないものというべきである。

もつとも、すでに強制執行が終了して基本たる債務名義の請求権が満足されたにもかかわらず、なんらかの事由(例えば、債権差押および取立命令を申請するに当つて、申請書に執行費用を請求する旨明記することを遺脱したとか、その明記はしたが、疎明をしなかつたため却下されたような場合。)によつて、同時に執行費用の取立ができなかつたときには、すでに請求権の満足を得た債務名義に基づいて、執行費用のみについてあらためて強制執行をすることができるものと解することは妥当でないから、一般原則に立ち帰つて、債権者は、執行費用額確定決定の申立をし、右確定決定に基づいて執行費用の取立をすることができるものと解される。

ところで、本件において、本案の債務名義であると認められる東京地方裁判所昭和四四年(モ)第一〇、六八九号書記官の処分に対する異議事件について、昭和四五年四月二八日付でなされた決定(同庁昭和四四年(モ)第一六、二二六号)ならびに昭和四五年一〇月二四日付でなされた決定(同庁昭和四五年(モ)第九、四六一号)に基づきすでに強制執行が行なわれたことは、抗告人の主張、立証しないところであるから、抗告人は、必要であつた強制執行費用については、右各決定に基づく強制執行の際に、別個の債務名義を要せずして取立てることができるものと考えられる。

よつて、抗告人の本件執行準備費用額確定決定申立を利益なしとして却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 浅賀栄 川添万夫 秋元隆男)

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